「……次に届くメッセージは、絶対に開かないで」
湊の言葉に、小春はスマートフォンを握りしめた。
「どうして?」
「それを開いたら、もう後戻りできなくなる」
「でも……今までずっと、私に何かを隠してきたのは湊さんですよね?」
「……そうだね」
湊は否定しなかった。
「だからこそ、これ以上君を巻き込みたくない」
「もう巻き込まれてます」
小春はまっすぐ湊を見た。
「お父さんのことも、湊さんのことも……私は全部知りたい」
「小春」
「それに――」
小春は少しだけ笑った。
「私、湊さんのことを好きになってしまったことを、後悔してません」
湊の目が揺れた。
「……そんなこと言わないで」
「どうして?」
「嬉しくなるから」
その言葉に、小春の胸が熱くなった。
湊は、ゆっくり小春の頬に触れた。
「本当はずっと……こうしたかった」
小春は目を閉じた。
二人の距離が、少しずつ近づいていく。
その瞬間――
小春のスマートフォンが震えた。
二人とも動きを止めた。
画面には、あの番号。
そして、メッセージが一件。
『これが最後です。』
小春は画面を見つめた。
「……開かないで」
湊が小春の手を握った。
「約束して」
小春は迷った。
でも――
知りたかった。
自分の父親のこと。
湊のこと。
そして、二人の間に何があったのか。
小春はゆっくり画面を開いた。
そこには、一枚の写真が添付されていた。
写真に写っていたのは――
事故の夜の湊。
そして、その隣に立っている小春の父親。
二人の少し後ろには、あの「もう一人の男」。
しかし、小春が驚いたのは、それではなかった。
写真の端に――
幼い小春自身が写っていた。
「……私?」
湊の顔から、血の気が引いた。
「そんな……」
「湊さん?」
湊は写真を見つめたまま、呟いた。
「……君は、あの夜ここにいたんだ」
「え?」
小春の記憶が、また断片的によみがえる。
雨。
車のライト。
父親の声。
そして――
誰かに抱きしめられている自分。
「……私、見てた」
「何を?」
小春は頭を押さえた。
「お父さんが……誰かと話してた」
「誰?」
「分からない……でも」
小春は写真を見つめた。
「湊さんじゃない」
湊が息をのんだ。
「じゃあ、誰を見た?」
小春の記憶の中に、もう一つの顔が浮かび始める。
あの男。
ずっと写真に写っていた、もう一人の男。
そして――
小春は突然、その名前を口にした。
「……神谷さん」
湊の顔色が変わった。
「……どうして、その名前を?」
「今、思い出したんです」
小春の目から涙が落ちた。
「お父さん、あの人に言ってた」
『小春には絶対に手を出すな』
湊が目を閉じる。
そして、震える声で言った。
「……やっぱり、そうだったのか」
「何が?」
湊は小春を見つめた。
「君のお父さんは――」
その瞬間。
倉庫の外で、物音がした。
二人が振り返る。
誰かが、こちらへ近づいてくる。
足音が止まった。
そして、扉の向こうから男の声がした。
「……湊」
湊の表情が凍る。
小春は息を止めた。
その声は――
写真に写っていた、あの男のものだった。
「久しぶりだな」
扉がゆっくり開く。
そこに立っていたのは――
神谷だった。
――第15話「最後の一行」に続く。