第11話 本当の約束

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「湊さん……私を守ってって頼まれたんじゃないですよね?」

小春の言葉に、湊は何も答えなかった。

雨の音だけが、二人の間に響いている。

「……違うんですか?」

もう一度聞くと、湊はゆっくり目を閉じた。

そして――

「違う」

小春の胸が、ざわついた。

「じゃあ、何を頼まれたんですか?」

湊はしばらく黙っていた。

やがて、小春の手をそっと離す。

「君のお父さんに頼まれたのは……」

湊は苦しそうに息を吐いた。

「小春を、俺から遠ざけることだった」

「……え?」

小春は言葉を失った。

「どうして……?」

「君のお父さんは、自分が死んだあと、俺が君のそばにいると危険だと思ってた」

「危険って……何が?」

湊は答えなかった。

「だから俺は、君に嫌われるようにした」

小春の胸が痛んだ。

「……嫌われるように?」

「冷たくしたり、距離を置いたり……わざと君を傷つけるようなことも言った」

「でも……」

小春は首を横に振った。

「湊さん、私に傘を貸してくれました」

「……」

「手も握ってくれた」

湊が目を伏せる。

「それに……私が困ってると、いつも助けてくれた」

「それは……」

湊の声が小さくなる。

「約束を守れなかっただけだ」

「……どういう意味?」

湊は小春を見つめた。

「君を遠ざけるはずだった」

そして、少しだけ笑った。

「でも、無理だった」

その言葉に、小春の目から涙がこぼれた。

「……ずるいです」

「うん」

「そんなこと言われたら……」

小春は涙を拭った。

「もっと好きになるじゃないですか」

湊の表情が固まった。

「……小春」

「私、もう戻れません」

「……」

「湊さんを好きになる前には、戻れない」

湊は何も言わなかった。

ただ、震える手で小春の頬に触れた。

「……俺も」

その一言だけだった。

小春の胸が、大きく鳴った。

*

その夜。

小春は自宅で、父親の写真を見つめていた。

すると、スマートフォンが震えた。

あの番号からだった。

『本当の約束を知りましたね。』

小春は画面を見つめる。

続いて――

『でも、まだ一つだけ嘘があります。』

「……嘘?」

さらにメッセージが届く。

『湊さんがあなたを遠ざけた本当の理由は、お父さんとの約束ではありません。』

小春の指が止まった。

そして、最後の一文。

『あなたのお父さんが亡くなった夜、湊さんはその場所にいました。』

小春の顔から血の気が引いた。

「……嘘」

湊は、事故のことを知っているだけじゃない。

あの夜――

父親が亡くなった場所に、いた。

――第12話「事故の夜」に続く。