あの家には、誰も住んでいない|第5話 写っていない私

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写真の中に、莉奈がいる。

でも、私はいない。

何度見ても同じだった。

小学校の頃の写真。

校庭で笑う莉奈。

その隣にいるはずの私だけが、いない。

「……どういうこと?」

私は写真を指でなぞった。

写真の端には、莉奈の肩。

その隣には、不自然なくらい広い空白がある。

まるで、最初からそこに誰もいなかったみたいに。

でも――

私は、この写真を知っている。

見たことがある。

そう思った。

ただ、どこで見たのかが思い出せない。


私は写真をスマホで撮って、拡大した。

莉奈がつけている赤い髪留め。

その横に、小さな青いものが写っている。

「……これ」

私は画面を止めた。

青いキーホルダー。

3話で見つけた、昔の写真と同じものだった。

私が持っていたもの。

莉奈の赤と、私の青。

二人でおそろいにしたキーホルダー。

私は急いで昔の箱を開けた。

小学校の頃から使っていた、古い小物入れ。

中には、昔の髪ゴムや消しゴム、使いかけのシール。

そして――

青いキーホルダー。

私はそれを手に取った。

裏返す。

傷だらけになっている。

その傷を見た瞬間。

また、頭の中に何かが浮かんだ。

午後2時58分。

莉奈の赤いキーホルダー。

私の青いキーホルダー。

二つを並べている。

そして莉奈が言う。

『交換しよう』

「……交換?」

私は思わず声に出した。

その瞬間、別の記憶が重なった。

『嫌だ』

今度は私の声。

『どうして?』

莉奈の声。

『だって、これがなくなったら……』

そこで記憶が途切れた。

私は青いキーホルダーを握りしめた。

胸がざわつく。

なぜ私は、これを今まで捨てずに持っていたんだろう。

なぜ莉奈のものまで、こんなにはっきり覚えているんだろう。


私は翌日、もう一度佐伯さんの家を訪ねた。

「昨日のことなんですが」

「ええ」

佐伯さんは、まるで私が来るのを待っていたようだった。

「莉奈が亡くなる前、私たちが喧嘩していたって言いましたよね」

「言ったわね」

「何で喧嘩していたか、知っていますか?」

佐伯さんはしばらく黙った。

「……あなた、本当に何も覚えていないの?」

その言葉に、背中が冷たくなった。

「はい」

佐伯さんは私から目を逸らした。

「莉奈ちゃんはね、最後の頃、ずっと同じことを言ってたの」

「何を?」

「『もうすぐ、全部終わる』って」

私は息を止めた。

「何が終わるんですか?」

「それは……」

佐伯さんは言いかけて、口を閉じた。

そして、

「あなたに聞けば分かると思ってた」

そう言った。

「……私?」

「ええ」

私は何も言えなかった。

「莉奈ちゃんは、あなたに何かを話そうとしてた」

「何を?」

「そこまでは知らないわ」

佐伯さんは首を振った。

「ただ、あの日――」

そこで佐伯さんは言葉を止めた。

「午後三時になる直前、莉奈ちゃんがあなたの家の窓を見ていたのは覚えてる」

「……私を待っていた?」

「そうだと思う」

私は写真を思い出した。

14時58分。

莉奈は笑っていた。

まるで、私が来ることを疑っていない顔。

でも私は――

来なかった。

本当に?


帰宅すると、私は自分の部屋に入った。

机の上に、青いキーホルダーを置く。

その横に、昔の写真を置いた。

二人で持っていた赤と青。

そして、写真の中にいない私。

「……おかしい」

私は写真の裏側を確認した。

何も書いていない。

次の写真。

その次。

全部確認する。

すると、一枚だけ。

写真の端に、鉛筆で小さな数字が書かれていた。

15:00

私は息を止めた。

午後3時。

約束の時間。

写真は、14時58分。

その次に残っている記録は、15時。

その間の二分間だけが、

きれいに抜け落ちている。

まるで誰かが、

そこだけ切り取ったみたいに。

私は写真を机に置いた。

その瞬間。

窓の外で、

カツン。

小さな音がした。

私は振り返った。

誰もいない。

ただ、窓ガラスに――

赤いものが引っかかっていた。

私はゆっくり近づいた。

それは、

赤い髪留めだった。

私は手を伸ばした。

触れた瞬間、

頭の中に、あの日の声が響いた。

『これを持ってて』

莉奈の声。

そして、私の声。

『……でも、これを持ってたら、莉奈は……』

そこで記憶が途切れた。

私は髪留めを握ったまま、

動けなくなった。

なぜなら――

その赤い髪留めには、

私の青いキーホルダーと同じ傷がついていた。

二つは、昔から一緒だった。