第12話 事故の夜

執筆者:

カテゴリ:

『あなたのお父さんが亡くなった夜、湊さんはその場所にいました。』

そのメッセージを見た瞬間、小春の指が震えた。

「……事故の夜に、いた?」

そんな話、聞いていない。

湊は父親の死について、何度も言葉を濁していた。

でも――

まさか、その場にいたなんて。

小春は、すぐに湊へ電話をかけた。

呼び出し音が鳴る。

一回。

二回。

三回。

『……もしもし』

「湊さん」

電話に出た声は、いつもより低かった。

「今、どこにいますか?」

『……家』

「会いたいです」

少しの沈黙。

『……分かった』

*

30分後。

二人は、以前一緒に歩いた公園にいた。

夜の公園は静かで、街灯だけが二人を照らしている。

小春は、湊の顔を見つめた。

「聞きたいことがあります」

「……うん」

「お父さんが亡くなった夜」

湊の表情が固まった。

「湊さんは、そこにいたんですか?」

長い沈黙。

そして――

「いた」

小春の胸が締めつけられた。

「……どうして?」

「君のお父さんから呼ばれたんだ」

「何のために?」

湊はポケットから、小さな古い鍵を取り出した。

「これを渡された」

「鍵?」

「『これを小春に渡す日が来るまで、絶対に開けるな』って」

小春は鍵を見つめた。

「じゃあ……今までずっと持ってたんですか?」

「うん」

「どうして今まで私に渡してくれなかったんですか?」

湊は苦しそうに笑った。

「怖かったんだ」

「何が?」

「これを渡したら、全部終わる気がして」

小春は黙った。

湊が鍵を握りしめる。

「君のお父さんが亡くなったあと、俺は約束を守るために君から離れた」

「……でも、また会った」

「うん」

「どうして?」

湊は小春を見つめた。

「会わないつもりだった」

そして、少しだけ笑う。

「でも……無理だった」

その言葉に、小春の胸が熱くなる。

「小春を見つけた瞬間、全部どうでもよくなった」

「……湊さん」

「嫌われてもいいと思ってた」

湊が一歩近づく。

「でも、好きになられるのは怖かった」

「どうして?」

「好きになったら、俺も……君を手放せなくなるから」

小春の目に涙が浮かんだ。

「もう、手放さないでください」

湊が息を止めた。

「……小春」

「私、もう怖くないです」

小春が湊の手を握る。

「何があっても、知りたい」

湊はしばらく小春の手を見つめていた。

そして――

そっと握り返した。

「……じゃあ、一緒に行こう」

「どこへ?」

湊は古い鍵を見せた。

「君のお父さんが残した場所へ」

*

その夜。

二人は、郊外にある古い倉庫の前に立っていた。

湊が鍵を差し込む。

カチッ。

扉が開いた。

中は暗かった。

小春が一歩入る。

すると、壁に一枚の写真が貼られていた。

幼い小春。

その隣に、父親。

そして――

若い頃の湊。

小春は写真に近づいた。

写真の下には、父親の字で一言だけ書かれていた。

『小春がこの場所に来る日が来たら、湊。今度こそ全部話してくれ。』

小春が振り返る。

「……湊さん」

湊は答えなかった。

ただ、写真の奥にある古い机を見つめていた。

その机の上には――

一台の古いビデオカメラが置かれていた。

「これ……何?」

湊の顔色が変わる。

「……それは」

「知ってるんですか?」

湊は答えなかった。

小春がビデオカメラを手に取る。

すると、まだ再生できる状態だった。

画面を押す。

映像が始まった。

そこに映っていたのは――

小春の父親だった。

そして、父親の隣には――

湊の父親が立っていた。

小春は息をのんだ。

その映像の中で、父親がカメラに向かって言った。

『もし小春がこれを見ることになったら――』

そこで映像が一度、途切れる。

そして再び映った画面には、

事故の夜の映像が残されていた。

小春は、思わず湊の腕をつかんだ。

「……これ、誰が撮ったの?」

湊は答えない。

映像の中で、父親が振り返る。

その先にいた人物を見て――

小春の呼吸が止まった。

「……嘘」

そこに映っていたのは――

今まで小春が一度も見たことのない、もう一人の男だった。

そして湊が、震える声で言った。

「……この人が、全部の始まりなんだ」

――第13話「もう一人の男」に続く。