『あなたのお父さんが亡くなった夜、湊さんはその場所にいました。』
そのメッセージを見た瞬間、小春の指が震えた。
「……事故の夜に、いた?」
そんな話、聞いていない。
湊は父親の死について、何度も言葉を濁していた。
でも――
まさか、その場にいたなんて。
小春は、すぐに湊へ電話をかけた。
呼び出し音が鳴る。
一回。
二回。
三回。
『……もしもし』
「湊さん」
電話に出た声は、いつもより低かった。
「今、どこにいますか?」
『……家』
「会いたいです」
少しの沈黙。
『……分かった』
*
30分後。
二人は、以前一緒に歩いた公園にいた。
夜の公園は静かで、街灯だけが二人を照らしている。
小春は、湊の顔を見つめた。
「聞きたいことがあります」
「……うん」
「お父さんが亡くなった夜」
湊の表情が固まった。
「湊さんは、そこにいたんですか?」
長い沈黙。
そして――
「いた」
小春の胸が締めつけられた。
「……どうして?」
「君のお父さんから呼ばれたんだ」
「何のために?」
湊はポケットから、小さな古い鍵を取り出した。
「これを渡された」
「鍵?」
「『これを小春に渡す日が来るまで、絶対に開けるな』って」
小春は鍵を見つめた。
「じゃあ……今までずっと持ってたんですか?」
「うん」
「どうして今まで私に渡してくれなかったんですか?」
湊は苦しそうに笑った。
「怖かったんだ」
「何が?」
「これを渡したら、全部終わる気がして」
小春は黙った。
湊が鍵を握りしめる。
「君のお父さんが亡くなったあと、俺は約束を守るために君から離れた」
「……でも、また会った」
「うん」
「どうして?」
湊は小春を見つめた。
「会わないつもりだった」
そして、少しだけ笑う。
「でも……無理だった」
その言葉に、小春の胸が熱くなる。
「小春を見つけた瞬間、全部どうでもよくなった」
「……湊さん」
「嫌われてもいいと思ってた」
湊が一歩近づく。
「でも、好きになられるのは怖かった」
「どうして?」
「好きになったら、俺も……君を手放せなくなるから」
小春の目に涙が浮かんだ。
「もう、手放さないでください」
湊が息を止めた。
「……小春」
「私、もう怖くないです」
小春が湊の手を握る。
「何があっても、知りたい」
湊はしばらく小春の手を見つめていた。
そして――
そっと握り返した。
「……じゃあ、一緒に行こう」
「どこへ?」
湊は古い鍵を見せた。
「君のお父さんが残した場所へ」
*
その夜。
二人は、郊外にある古い倉庫の前に立っていた。
湊が鍵を差し込む。
カチッ。
扉が開いた。
中は暗かった。
小春が一歩入る。
すると、壁に一枚の写真が貼られていた。
幼い小春。
その隣に、父親。
そして――
若い頃の湊。
小春は写真に近づいた。
写真の下には、父親の字で一言だけ書かれていた。
『小春がこの場所に来る日が来たら、湊。今度こそ全部話してくれ。』
小春が振り返る。
「……湊さん」
湊は答えなかった。
ただ、写真の奥にある古い机を見つめていた。
その机の上には――
一台の古いビデオカメラが置かれていた。
「これ……何?」
湊の顔色が変わる。
「……それは」
「知ってるんですか?」
湊は答えなかった。
小春がビデオカメラを手に取る。
すると、まだ再生できる状態だった。
画面を押す。
映像が始まった。
そこに映っていたのは――
小春の父親だった。
そして、父親の隣には――
湊の父親が立っていた。
小春は息をのんだ。
その映像の中で、父親がカメラに向かって言った。
『もし小春がこれを見ることになったら――』
そこで映像が一度、途切れる。
そして再び映った画面には、
事故の夜の映像が残されていた。
小春は、思わず湊の腕をつかんだ。
「……これ、誰が撮ったの?」
湊は答えない。
映像の中で、父親が振り返る。
その先にいた人物を見て――
小春の呼吸が止まった。
「……嘘」
そこに映っていたのは――
今まで小春が一度も見たことのない、もう一人の男だった。
そして湊が、震える声で言った。
「……この人が、全部の始まりなんだ」
――第13話「もう一人の男」に続く。