第13話 もう一人の男

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「……この人が、全部の始まりなんだ」

湊の言葉に、小春は画面から目を離せなかった。

映像の中にいる男。

父親と話している。

その顔には、どこか見覚えがあった。

でも、誰なのか思い出せない。

「湊さん……この人、誰?」

「俺の父親と一緒に仕事をしていた人だ」

「じゃあ、お父さんとも知り合いだったんですか?」

「うん」

湊は少し間を置いて続けた。

「でも……それだけじゃない」

「……何が?」

湊は映像を止めた。

画面には、事故の夜。

車のライトに照らされた三人の姿が映っている。

小春の父親。

湊の父親。

そして、もう一人の男。

「事故が起きる直前、三人はここにいた」

「じゃあ……お父さんは、この人と何かあったんですか?」

「違う」

湊は首を横に振った。

「小春のお父さんは、この人から君を守ろうとしてた」

「私を?」

「うん」

小春の胸がざわついた。

「でも、どうして?」

湊は答えず、ビデオカメラを見つめた。

「続きを見よう」

再生ボタンを押す。

映像の中で、小春の父親が誰かに向かって叫んでいた。

『もう小春には関わらないでくれ!』

男の声が返ってくる。

『それを決めるのは、あなたじゃない』

小春は息をのんだ。

「……何、この人」

そのとき。

映像の中で、男がこちらを振り返った。

そして――

カメラのほうへ近づいてくる。

画面が大きく揺れた。

「……!」

次の瞬間、映像が途切れた。

小春は思わず湊の腕をつかんだ。

「怖い……」

湊は何も言わず、小春の手を握った。

「大丈夫」

その声を聞くだけで、少しだけ安心する。

「……湊さん」

「ん?」

「私、湊さんがいてくれてよかった」

湊の指が、少しだけ強く小春の手を握った。

「俺も」

そして湊は、静かに小春を見つめた。

「小春がいてくれてよかった」

二人の距離が、少しずつ近づく。

小春は目を逸らさなかった。

湊の顔が近づいてくる。

あと少しで――

そのとき。

ビデオカメラから、突然音声が流れた。

『湊。もし俺に何かあったら――小春を頼む』

二人は同時に画面を見た。

続いて、父親の声。

『ただし、絶対に小春を好きになるな』

小春の目が大きくなる。

「……え?」

湊の顔から、表情が消えた。

「だから……」

小春が湊を見る。

「だから、私を好きになっちゃいけなかったんですか?」

湊は答えなかった。

「お父さんに、そう言われたから?」

「……違う」

「じゃあ、何?」

湊は苦しそうに目を伏せた。

「小春のお父さんは……俺が君を好きになることまで分かってたんだ」

「……え?」

その瞬間。

小春のスマートフォンが震えた。

あの番号からだった。

画面には、一枚の写真。

今よりずっと若い湊が写っている。

その隣には――

小春の父親。

そして、もう一人の男。

写真の裏には、短い言葉があった。

『あなたが湊さんを好きになるまで、あと1回。』

小春の呼吸が止まる。

「……あと1回?」

湊が画面を見る。

そして――

初めて、明らかに動揺した。

「小春……」

「何ですか?」

「そのメッセージ……」

湊は苦しそうに小春を見つめた。

「俺も、昔一度だけ見たことがある」

「……え?」

「この番号から、俺にも届いたんだ」

小春の目が大きくなる。

「何て書いてあったんですか?」

湊は答えなかった。

ただ、小春の手を強く握った。

そして静かに言った。

「……次に届くメッセージは、絶対に開かないで」

――第14話「最後のメッセージ」に続く。