「……この人が、全部の始まりなんだ」
湊の言葉に、小春は画面から目を離せなかった。
映像の中にいる男。
父親と話している。
その顔には、どこか見覚えがあった。
でも、誰なのか思い出せない。
「湊さん……この人、誰?」
「俺の父親と一緒に仕事をしていた人だ」
「じゃあ、お父さんとも知り合いだったんですか?」
「うん」
湊は少し間を置いて続けた。
「でも……それだけじゃない」
「……何が?」
湊は映像を止めた。
画面には、事故の夜。
車のライトに照らされた三人の姿が映っている。
小春の父親。
湊の父親。
そして、もう一人の男。
「事故が起きる直前、三人はここにいた」
「じゃあ……お父さんは、この人と何かあったんですか?」
「違う」
湊は首を横に振った。
「小春のお父さんは、この人から君を守ろうとしてた」
「私を?」
「うん」
小春の胸がざわついた。
「でも、どうして?」
湊は答えず、ビデオカメラを見つめた。
「続きを見よう」
再生ボタンを押す。
映像の中で、小春の父親が誰かに向かって叫んでいた。
『もう小春には関わらないでくれ!』
男の声が返ってくる。
『それを決めるのは、あなたじゃない』
小春は息をのんだ。
「……何、この人」
そのとき。
映像の中で、男がこちらを振り返った。
そして――
カメラのほうへ近づいてくる。
画面が大きく揺れた。
「……!」
次の瞬間、映像が途切れた。
小春は思わず湊の腕をつかんだ。
「怖い……」
湊は何も言わず、小春の手を握った。
「大丈夫」
その声を聞くだけで、少しだけ安心する。
「……湊さん」
「ん?」
「私、湊さんがいてくれてよかった」
湊の指が、少しだけ強く小春の手を握った。
「俺も」
そして湊は、静かに小春を見つめた。
「小春がいてくれてよかった」
二人の距離が、少しずつ近づく。
小春は目を逸らさなかった。
湊の顔が近づいてくる。
あと少しで――
そのとき。
ビデオカメラから、突然音声が流れた。
『湊。もし俺に何かあったら――小春を頼む』
二人は同時に画面を見た。
続いて、父親の声。
『ただし、絶対に小春を好きになるな』
小春の目が大きくなる。
「……え?」
湊の顔から、表情が消えた。
「だから……」
小春が湊を見る。
「だから、私を好きになっちゃいけなかったんですか?」
湊は答えなかった。
「お父さんに、そう言われたから?」
「……違う」
「じゃあ、何?」
湊は苦しそうに目を伏せた。
「小春のお父さんは……俺が君を好きになることまで分かってたんだ」
「……え?」
その瞬間。
小春のスマートフォンが震えた。
あの番号からだった。
画面には、一枚の写真。
今よりずっと若い湊が写っている。
その隣には――
小春の父親。
そして、もう一人の男。
写真の裏には、短い言葉があった。
『あなたが湊さんを好きになるまで、あと1回。』
小春の呼吸が止まる。
「……あと1回?」
湊が画面を見る。
そして――
初めて、明らかに動揺した。
「小春……」
「何ですか?」
「そのメッセージ……」
湊は苦しそうに小春を見つめた。
「俺も、昔一度だけ見たことがある」
「……え?」
「この番号から、俺にも届いたんだ」
小春の目が大きくなる。
「何て書いてあったんですか?」
湊は答えなかった。
ただ、小春の手を強く握った。
そして静かに言った。
「……次に届くメッセージは、絶対に開かないで」
――第14話「最後のメッセージ」に続く。