第14話 最後のメッセージ

執筆者:

カテゴリ:

「……次に届くメッセージは、絶対に開かないで」

湊の言葉に、小春はスマートフォンを握りしめた。

「どうして?」

「それを開いたら、もう後戻りできなくなる」

「でも……今までずっと、私に何かを隠してきたのは湊さんですよね?」

「……そうだね」

湊は否定しなかった。

「だからこそ、これ以上君を巻き込みたくない」

「もう巻き込まれてます」

小春はまっすぐ湊を見た。

「お父さんのことも、湊さんのことも……私は全部知りたい」

「小春」

「それに――」

小春は少しだけ笑った。

「私、湊さんのことを好きになってしまったことを、後悔してません」

湊の目が揺れた。

「……そんなこと言わないで」

「どうして?」

「嬉しくなるから」

その言葉に、小春の胸が熱くなった。

湊は、ゆっくり小春の頬に触れた。

「本当はずっと……こうしたかった」

小春は目を閉じた。

二人の距離が、少しずつ近づいていく。

その瞬間――

小春のスマートフォンが震えた。

二人とも動きを止めた。

画面には、あの番号。

そして、メッセージが一件。

『これが最後です。』

小春は画面を見つめた。

「……開かないで」

湊が小春の手を握った。

「約束して」

小春は迷った。

でも――

知りたかった。

自分の父親のこと。

湊のこと。

そして、二人の間に何があったのか。

小春はゆっくり画面を開いた。

そこには、一枚の写真が添付されていた。

写真に写っていたのは――

事故の夜の湊。

そして、その隣に立っている小春の父親。

二人の少し後ろには、あの「もう一人の男」。

しかし、小春が驚いたのは、それではなかった。

写真の端に――

幼い小春自身が写っていた。

「……私?」

湊の顔から、血の気が引いた。

「そんな……」

「湊さん?」

湊は写真を見つめたまま、呟いた。

「……君は、あの夜ここにいたんだ」

「え?」

小春の記憶が、また断片的によみがえる。

雨。

車のライト。

父親の声。

そして――

誰かに抱きしめられている自分。

「……私、見てた」

「何を?」

小春は頭を押さえた。

「お父さんが……誰かと話してた」

「誰?」

「分からない……でも」

小春は写真を見つめた。

「湊さんじゃない」

湊が息をのんだ。

「じゃあ、誰を見た?」

小春の記憶の中に、もう一つの顔が浮かび始める。

あの男。

ずっと写真に写っていた、もう一人の男。

そして――

小春は突然、その名前を口にした。

「……神谷さん」

湊の顔色が変わった。

「……どうして、その名前を?」

「今、思い出したんです」

小春の目から涙が落ちた。

「お父さん、あの人に言ってた」

『小春には絶対に手を出すな』

湊が目を閉じる。

そして、震える声で言った。

「……やっぱり、そうだったのか」

「何が?」

湊は小春を見つめた。

「君のお父さんは――」

その瞬間。

倉庫の外で、物音がした。

二人が振り返る。

誰かが、こちらへ近づいてくる。

足音が止まった。

そして、扉の向こうから男の声がした。

「……湊」

湊の表情が凍る。

小春は息を止めた。

その声は――

写真に写っていた、あの男のものだった。

「久しぶりだな」

扉がゆっくり開く。

そこに立っていたのは――

神谷だった。

――第15話「最後の一行」に続く。