第5話 言えなかった約束

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「俺が……全部話すから」

湊の言葉が、夜の静かな駅前に落ちた。

小春はスマートフォンを握りしめたまま、湊を見つめた。

「……全部って?」

「君のお父さんのことも」

「じゃあ、やっぱり知ってるんですね」

「知ってる」

湊は、ゆっくりとうなずいた。

「でも、今ここで話したくない」

「どうして?」

「……小春が傷つくから」

「もう十分、傷ついてます」

小春の声が震えた。

「何も知らないまま、知らない人からこんなメッセージが届いて……。湊さんまで何か隠してる」

「……ごめん」

その一言が、余計に苦しかった。

「謝るくらいなら、教えてください」

湊はしばらく黙っていた。

やがて、小春の目をまっすぐ見つめる。

「君のお父さんは、俺の父親と昔から知り合いだった」

「……え?」

「俺がまだ子どもの頃の話だ」

湊は少しだけ視線を落とした。

「二人は、一緒に仕事をしていた。でも、ある日……突然、関係が壊れた」

「何があったんですか?」

「それは、まだ言えない」

「また……」

小春が悲しそうに笑う。

「また、言えないんですね」

湊は何も言えなかった。

その沈黙が答えのように感じられた。

小春は写真をバッグにしまった。

「もう、帰ります」

「小春」

「今日は……一人で帰りたいです」

湊の手が伸びかけた。

けれど、触れることはなかった。

「……分かった」

小春は振り返らずに歩き出した。

*

家に帰ると、小春は写真をもう一度取り出した。

幼い自分。

その隣で笑っている、知らない男性。

そして、写真の裏に書かれた言葉。

――小春へ。いつか、君に本当のことを話す。

「……本当に、お父さんなの?」

小春は写真を見つめた。

すると、スマートフォンが震えた。

あの番号からだった。

『湊さんは、あなたに嘘をついています。』

小春の胸がざわつく。

続いて、もう一通。

『でも、一つだけ本当のことがあります。』

そして――

『湊さんは、あなたが傷つくのをずっと怖がっています。』

小春は息を止めた。

湊が自分を避けようとしていた理由。

「好きになるな」と言った理由。

全部、同じところにつながっている気がした。

そのとき、さらにメッセージが届いた。

『あなたはまだ知らない。』

『湊さんと初めて会ったのは、今日じゃありません。』

「……え?」

小春の手から、スマートフォンが滑り落ちそうになった。

その瞬間――

頭の中に、ひとつの記憶がよみがえった。

小さな頃。

雨の日。

誰かに傘を差し出されて、

「大丈夫。俺がいるから」

そう言われた記憶。

顔は思い出せない。

でも――

その声だけは、なぜか覚えていた。

小春は震える手でもう一度、写真を見た。

写真の隅に写っていた若い男性。

そして、今の湊。

「……まさか」

小春の胸が、大きく鳴った。

――第6話「はじめて会った日」に続く。