第4話 隠された秘密

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翌朝。

小春は、昨日のことが頭から離れないまま会社へ向かった。

あの写真に写っていた男性。

そして、湊のあの表情。

「……何なの?」

小春は小さくつぶやいた。

会社に着くと、無意識に湊の姿を探してしまう自分に気づいた。

会いたい。

そう思ったことが、少し悔しかった。

「おはよう、小春さん」

突然、後ろから声がした。

「わっ……!」

振り返ると、湊が立っていた。

「驚きすぎ」

「だって……急に声かけるから」

「昨日から、俺のこと避けてる?」

「……避けてません」

「じゃあ、なんで目を合わせないの?」

小春は言葉に詰まった。

そんなこと、分かるわけがない。

湊の顔を見ると、胸が苦しくなるから。

「……湊さんが、変なこと言うからです」

「俺、何か言った?」

「私が嫌いになるって……」

湊の表情が少し曇った。

「……覚えてるんだ」

「忘れられませんよ」

しばらく沈黙が続いた。

そして湊は、周りに誰もいないことを確認するように辺りを見た。

「……小春」

呼び捨てにされた瞬間、小春の心臓が跳ねた。

「……はい」

「俺のことを、好きにならないで」

胸が、ぎゅっと締めつけられた。

「……どうして?」

「理由は言えない」

「またそれですか?」

「うん」

湊は困ったように笑った。

「でも、一つだけ言える」

「何ですか?」

「君が俺を好きになったら……たぶん、俺も困る」

「……え?」

湊はそれ以上何も言わず、仕事へ戻っていった。

小春は、その場に立ち尽くした。

――俺も困る。

その言葉の意味を考えるだけで、顔が熱くなる。

*

仕事が終わったあと。

小春が駅へ向かっていると、後ろから湊が追いついてきた。

「小春」

「湊さん?」

「送る」

「大丈夫です」

「知ってる」

「じゃあ……」

湊は少しだけ笑った。

「俺が送りたい」

その一言に、小春は何も言えなくなった。

二人で並んで歩く。

会社を出て二人きりになると、湊はもう「小春さん」とは呼ばなかった。

それが、小春には妙に嬉しかった。

しばらく歩いたあと、湊が口を開いた。

「昨日の写真」

小春の足が止まった。

「……はい」

「まだ持ってる?」

「はい」

「見せて」

小春はバッグから写真を取り出した。

湊は写真を見た瞬間、目を伏せた。

「やっぱり……」

「知ってるんですか?」

「……知ってる」

「この人、誰なんですか?」

長い沈黙のあと。

湊は、静かに答えた。

「君のお父さんだよ」

小春は息をのんだ。

「……でも、父は私が小さい頃に亡くなったって」

「そう聞かされてるんだね」

「どういう意味ですか?」

湊は答えなかった。

ただ、写真の裏側を指差した。

「そこ、見て」

小春が写真を裏返す。

そこには、古いペンで小さく文字が書かれていた。

――小春へ。いつか、君に本当のことを話す。

「……これ、誰が書いたの?」

小春が顔を上げた瞬間。

湊のスマートフォンが鳴った。

画面を見た湊の顔から、血の気が引いていく。

「……どうしたんですか?」

湊は答えない。

小春のスマートフォンも、同時に震えた。

あの番号だった。

恐る恐る開く。

そこには――

『湊さんに聞いてはいけません。』

そして、その下にもう一通。

『だって、あなたのお父さんを死なせたのは――』

小春の指が止まった。

続きの一文を、読むことができなかった。

湊が、小春のスマートフォンを見つめていた。

そして、低い声で言った。

「……小春。それ以上、見ないで」

「……どうして?」

「俺が……全部話すから」

そう言った湊の目は、今まで見たことがないほど苦しそうだった。

――第5話「言えなかった約束」に続く。