美咲は、写真の裏に書かれた文字を何度も読み返していた。
――「花が届いた理由を知れば、すべてが終わる。」
頭の中で、今までの出来事が次々と浮かんでは消えていく。
毎週届く花。
母が残したDVD。
消された記憶。
15年前のあの夜。
そして――沙織。
「私が、あなたのお母さんなの」
その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
「そんな……」
美咲は写真を握りしめた。
沙織が母親?
そんなはずはない。
沙織は、自分と同じくらいの年齢だ。
それなのに、自分を産んだという。
ありえない。
そう思った。
けれど――
あの手紙には、確かにそう書かれていた。
美咲は急いで母のDVDを再生した。
映像の中の母は、カメラを見つめていた。
『美咲。もし、この映像を見ているなら……あなたは、もう真実を知り始めているのでしょう』
母は一度、深く息を吐いた。
『あなたに話せなかったことがあります』
映像の中の母の目には、涙が浮かんでいた。
『あなたを産んだのは、私ではありません』
美咲は画面から目を離せなかった。
『でも、あなたを育てたのは私です。私はあなたを、本当の娘だと思っていました』
そこで映像が一瞬乱れた。
そして、母の声が続く。
『沙織は、あなたを産んだ女性の娘です』
美咲は息をのんだ。
「……沙織の母親?」
つまり――
自分を産んだのは沙織ではない。
では、なぜ手紙には「沙織」と書かれていたのか。
その答えを探すように、美咲は映像を見つめた。
『沙織は、あなたの本当の母親を知っています』
そこで母は少し黙った。
『そして……あなたのお父さんも、その女性を知っています』
美咲の背中に冷たいものが走った。
映像の中の母は、最後にこう言った。
『15年前、あの男が美咲に話そうとしていたことは、あなたの出生についてです』
「……出生?」
あの夜。
男が倒れていた雨の中。
最後に言いかけていた言葉。
――お前の……父親が……
そこまでだった。
母は続けた。
『あの男は、美咲の本当の父親ではありません』
美咲は立ち上がった。
「じゃあ……誰なの?」
その瞬間、DVDの映像が止まった。
画面が真っ暗になる。
そして数秒後――
別の映像が始まった。
15年前。
若い美咲と沙織が並んでいる。
その少し離れた場所に、あの男が立っていた。
そして、その男の隣には――
若い頃の母がいた。
美咲は目を疑った。
「……どうして?」
母は、あの男と話していた。
その表情は険しい。
すると、あの男が母に何かを渡した。
小さな封筒だった。
母はそれを受け取ると、首を横に振った。
そして――
映像の中で、母が口にした。
「この子には、絶対に知られてはいけない」
美咲の心臓が大きく跳ねた。
その直後。
映像が切り替わった。
病院の廊下。
そこには、若い沙織がいた。
そして沙織の前に――
一人の女性が立っていた。
顔は映っていない。
けれど、その女性が抱いていた赤ん坊の姿を見た瞬間、美咲は凍りついた。
赤ん坊の手首には、小さな花の刺繍が入った布が巻かれていた。
同じ花。
毎週届いていた花と、同じ形だった。
「……この花……」
母が隠したかったのは、自分の出生だけではなかった。
花には、最初から意味があった。
そして映像の最後。
沙織が赤ん坊を抱いた女性に向かって、何かを言っていた。
音声はほとんど聞き取れない。
美咲は音量を最大にした。
ザーッというノイズの中から、かすかに声が聞こえる。
『この子は……私たちが守ります』
そして、もう一人の女性の声。
『お願い……この子を、あの人から隠して』
美咲は画面を見つめたまま動けなかった。
「あの人って……誰?」
その時。
玄関の外から、何かが落ちる音がした。
美咲はゆっくりと立ち上がった。
ドアの前に近づく。
そして、そっと覗き穴を覗いた。
誰もいない。
ただ、玄関前に一輪の花が置かれていた。
今まで毎週届いていたものとは違う。
白い花だった。
その横には、小さなカード。
美咲は震える手で拾い上げた。
そこには、たった一言。
「お母さんに会わせてあげる。」
美咲の手が震えた。
母は死んだはずだった。
けれど――
もし本当に生きているのなら。
今まで届いていた花は、母からのものだったのかもしれない。
美咲はカードを裏返した。
そこに書かれていた住所を見た瞬間――
息が止まった。
それは、
15年前に、あの男が倒れていた場所だった。
第14話へ続く。