第13話 母が隠した理由

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美咲は、写真の裏に書かれた文字を何度も読み返していた。

――「花が届いた理由を知れば、すべてが終わる。」

頭の中で、今までの出来事が次々と浮かんでは消えていく。

毎週届く花。

母が残したDVD。

消された記憶。

15年前のあの夜。

そして――沙織。

「私が、あなたのお母さんなの」

その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。

「そんな……」

美咲は写真を握りしめた。

沙織が母親?

そんなはずはない。

沙織は、自分と同じくらいの年齢だ。

それなのに、自分を産んだという。

ありえない。

そう思った。

けれど――

あの手紙には、確かにそう書かれていた。

美咲は急いで母のDVDを再生した。

映像の中の母は、カメラを見つめていた。

『美咲。もし、この映像を見ているなら……あなたは、もう真実を知り始めているのでしょう』

母は一度、深く息を吐いた。

『あなたに話せなかったことがあります』

映像の中の母の目には、涙が浮かんでいた。

『あなたを産んだのは、私ではありません』

美咲は画面から目を離せなかった。

『でも、あなたを育てたのは私です。私はあなたを、本当の娘だと思っていました』

そこで映像が一瞬乱れた。

そして、母の声が続く。

『沙織は、あなたを産んだ女性の娘です』

美咲は息をのんだ。

「……沙織の母親?」

つまり――

自分を産んだのは沙織ではない。

では、なぜ手紙には「沙織」と書かれていたのか。

その答えを探すように、美咲は映像を見つめた。

『沙織は、あなたの本当の母親を知っています』

そこで母は少し黙った。

『そして……あなたのお父さんも、その女性を知っています』

美咲の背中に冷たいものが走った。

映像の中の母は、最後にこう言った。

『15年前、あの男が美咲に話そうとしていたことは、あなたの出生についてです』

「……出生?」

あの夜。

男が倒れていた雨の中。

最後に言いかけていた言葉。

――お前の……父親が……

そこまでだった。

母は続けた。

『あの男は、美咲の本当の父親ではありません』

美咲は立ち上がった。

「じゃあ……誰なの?」

その瞬間、DVDの映像が止まった。

画面が真っ暗になる。

そして数秒後――

別の映像が始まった。

15年前。

若い美咲と沙織が並んでいる。

その少し離れた場所に、あの男が立っていた。

そして、その男の隣には――

若い頃の母がいた。

美咲は目を疑った。

「……どうして?」

母は、あの男と話していた。

その表情は険しい。

すると、あの男が母に何かを渡した。

小さな封筒だった。

母はそれを受け取ると、首を横に振った。

そして――

映像の中で、母が口にした。

「この子には、絶対に知られてはいけない」

美咲の心臓が大きく跳ねた。

その直後。

映像が切り替わった。

病院の廊下。

そこには、若い沙織がいた。

そして沙織の前に――

一人の女性が立っていた。

顔は映っていない。

けれど、その女性が抱いていた赤ん坊の姿を見た瞬間、美咲は凍りついた。

赤ん坊の手首には、小さな花の刺繍が入った布が巻かれていた。

同じ花。

毎週届いていた花と、同じ形だった。

「……この花……」

母が隠したかったのは、自分の出生だけではなかった。

花には、最初から意味があった。

そして映像の最後。

沙織が赤ん坊を抱いた女性に向かって、何かを言っていた。

音声はほとんど聞き取れない。

美咲は音量を最大にした。

ザーッというノイズの中から、かすかに声が聞こえる。

『この子は……私たちが守ります』

そして、もう一人の女性の声。

『お願い……この子を、あの人から隠して』

美咲は画面を見つめたまま動けなかった。

「あの人って……誰?」

その時。

玄関の外から、何かが落ちる音がした。

美咲はゆっくりと立ち上がった。

ドアの前に近づく。

そして、そっと覗き穴を覗いた。

誰もいない。

ただ、玄関前に一輪の花が置かれていた。

今まで毎週届いていたものとは違う。

白い花だった。

その横には、小さなカード。

美咲は震える手で拾い上げた。

そこには、たった一言。

「お母さんに会わせてあげる。」

美咲の手が震えた。

母は死んだはずだった。

けれど――

もし本当に生きているのなら。

今まで届いていた花は、母からのものだったのかもしれない。

美咲はカードを裏返した。

そこに書かれていた住所を見た瞬間――

息が止まった。

それは、

15年前に、あの男が倒れていた場所だった。

第14話へ続く。