第5話 死んだはずの男からの手紙

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震える手で、私は手紙を開いた。

封筒は古い。

紙も黄ばんでいる。

それなのに、文字だけははっきりしていた。

『あなたがこの手紙を読む頃には、私はもう死んでいるでしょう。』

私は息を止めた。

その下には、私の名前が書かれていた。

――美咲へ。

私はその名前を何度も目で追った。

この男は、私の名前を知っている。

当たり前のことなのに、なぜか怖かった。

私は続きを読んだ。

『まず、謝らなければならない。』

『君に何も言わず、消えることを許してほしい。』

消える。

死ぬ、ではなく。

消える。

私はそこに引っかかった。

そして、次の文章を読んだ。

『君の夫を信じてはいけない。』

手から力が抜けた。

「……夫?」

私は思わず後ろを振り返った。

もちろん、誰もいない。

静まり返った部屋。

私はもう一度、手紙に目を落とした。

『彼は君を守っているつもりだ。』

『でも、君を守るために、君から大切なものを奪った。』

何のことか分からない。

私は手紙を握りしめた。

すると、最後のほうに見覚えのある名前が出てきた。

――沙織。

私は目を疑った。

『沙織を信じてもいけない。』

「……どういうこと?」

親友。

15年間、私の味方だと思っていた人。

でも、第4話で彼女は言った。

「彼が死んだ夜……私はそこにいた」

そして、

「最後にいたのは、あなた」

何が本当なのか分からない。

私はさらに読み進めた。

『あの夜、君は彼を殺していない。』

私は息を吐いた。

でも、その次の一文で、また胸が苦しくなった。

『ただし、君は彼が死ぬことを望んだ。』

「……私が?」

そんなはずはない。

私は人を殺したいなんて思ったことはない。

まして、この男に。

私は写真を見つめた。

笑っている私。

その隣で笑っている男。

そして、少し離れたところにいる沙織。

何かがおかしい。

私は写真を裏返した。

すると、裏側に小さな文字が書いてあった。

『3人ではなかった。』

その下に、

『4人目がいた。』

私は固まった。

4人目?

写真には、私と男と沙織しか写っていない。

じゃあ、もう一人は誰?

その瞬間。

部屋の外で足音がした。

一歩。

また一歩。

ゆっくり近づいてくる。

私は慌てて電気を消した。

ドアの前で足音が止まった。

カチャ。

ドアノブが動いた。

私は息を殺した。

そして――

「美咲?」

聞き覚えのある声。

夫だった。

「いるんだろ?」

私は答えなかった。

夫はしばらく黙っていた。

そして、

「……その手紙を見つけたんだな」

私は凍りついた。

どうして知っているの?

私はドアから離れた。

「あなた……何を知ってるの?」

ドアの向こうから、夫の声がした。

「全部話す」

「今まで何も話してくれなかったのに?」

「話せなかったんだ」

「どうして?」

長い沈黙。

そして夫が言った。

「お前が、思い出すと死ぬからだ」

私は言葉を失った。

「……どういう意味?」

夫は答えなかった。

代わりに、ポケットから何かを取り出したような音がした。

カチャッ。

鍵の音。

私は手に持っていた鍵を見た。

同じ音だった。

「その部屋を出ろ」

夫が言った。

「今すぐだ」

「嫌」

「美咲!」

「私は全部知りたい」

私はドアを開けた。

そこには夫が立っていた。

でも――

夫の手に握られていたのは、ナイフだった。

私は一歩後ずさった。

夫は慌ててナイフを隠した。

「違う。これは……」

その瞬間。

背後から、別の声がした。

「やっぱり来たんだね」

振り返る。

誰もいないはずの廊下の奥に、男が立っていた。

私はその顔を見た。

写真の男。

15年前に死んだはずの男。

私の手から、手紙が落ちた。

男は私を見て、静かに笑った。

そして言った。

「久しぶり、美咲。」

第6話へ続く。