第4話 親友の告白

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「――久しぶり」

ドアの向こうに立っていたのは、紛れもなく彼女だった。

沙織。

高校時代からの親友。

最後に会ったのは、いつだっただろう。

結婚式にも来てくれた。

その後も何度か連絡を取っていたはずなのに、いつの間にか疎遠になっていた。

「……どうして、ここに?」

私が聞くと、沙織は私ではなく夫を見た。

そして、小さく笑った。

「やっぱり、まだ話してなかったんだ」

夫の顔が強張った。

「帰れ」

「あなたに言われる筋合いはない」

沙織は私を見る。

「全部、思い出した?」

「何を?」

「15年前のこと」

私は答えられなかった。

沙織は靴を脱ぐと、勝手に家の中へ入ってきた。

「この人から花が届いてるんでしょ?」

私は息を呑んだ。

「知ってるの?」

「私が頼んだの」

夫が立ち上がった。

「沙織!」

「何?」

「余計なことをするな」

「余計なこと?」

沙織は笑った。

「15年間、黙ってたことのほうがよっぽど罪深いと思うけど」

私は二人を交互に見た。

「……どういうこと?」

沙織はバッグから一枚の写真を取り出した。

写真には、私と沙織、そしてあの男が写っていた。

3人とも笑っている。

でも、写真の裏には日付が書かれていた。

15年前の11月3日。

私はその日付を見つめた。

胸の奥がざわつく。

「この日、何があったの?」

沙織はしばらく黙っていた。

そして言った。

「あなたは、彼に会いに行った」

「どうして?」

「彼が、あなたに秘密を話したから」

「秘密?」

沙織は夫を見た。

「あなたの夫について」

空気が凍った。

「……私の夫?」

「結婚する前、彼はあなたに言おうとしてた」

夫が低い声で言った。

「やめろ」

沙織は無視した。

「彼は、あなたの夫がついていた嘘を知ってた」

私は夫を見る。

「何の嘘?」

夫は答えない。

「あなたは知らなかったのよ」

沙織が言った。

「あなたが今の夫と出会ったのは、偶然じゃない」

私は言葉を失った。

「……どういうこと?」

「彼が調べていたの」

沙織は写真を裏返した。

そこには、もう一つの住所が書かれていた。

「この場所に行けば、全部分かる」

私は住所を見る。

知らない住所。

でも、その数字を見た瞬間、なぜか涙が出た。

「……私、この場所を知ってる」

夫が立ち上がった。

「行くな」

「どうして?」

「そこに行ったら、お前は全部思い出す」

「だったら思い出したい」

夫は何も言えなかった。

私は沙織に聞いた。

「あなたは全部知ってるの?」

沙織は首を横に振った。

「全部じゃない」

「じゃあ、何を知ってるの?」

沙織は俯いた。

そして、震える声で言った。

「彼が死んだ夜……私はそこにいた」

私は息を止めた。

「あなたが殺したの?」

「違う」

沙織は涙を浮かべながら首を振った。

「私が見たときには、もう死んでた」

「じゃあ、誰が?」

沙織は答えなかった。

代わりに、私の手を握った。

「あなたよ」

「……え?」

「彼が死んでいた場所に、最後にいたのは――」

沙織の目から涙が落ちた。

「あなたなの」

私は後ずさった。

「そんな……」

「でもね」

沙織が続けた。

「あなたが殺したんじゃない」

私は混乱した。

「じゃあ、私は何をしたの?」

沙織はしばらく黙っていた。

そして、ポケットから古い鍵を取り出した。

あの花束に入っていたものと同じ鍵だった。

「これを開けて」

「何を?」

「あなたが15年前に、自分で封印したもの」

沙織は私の手に鍵を握らせた。

その瞬間、夫が叫んだ。

「やめろ!」

私は夫を見る。

そして初めて気づいた。

夫の手が震えている。

怖がっている。

私が真実を知ることを。

私は鍵を握りしめた。

そして思った。

――この人は、私に何を隠している?

その夜。

私は夫が眠ったあと、一人で家を出た。

向かった先は、沙織から渡された住所。

古びたアパートの一室。

鍵を差し込む。

カチッ。

扉が開いた。

部屋の中には何もなかった。

家具もない。

電気もつかない。

ただ、部屋の中央に小さな箱が置いてあった。

私は鍵を使って箱を開けた。

中に入っていたのは――

一枚の写真。

そして、

「あなたがこの手紙を読む頃には、私はもう死んでいるでしょう」

から始まる手紙だった。

差出人の名前を見た瞬間。

私はその場に座り込んだ。

そこに書かれていた名前は、

15年前に死んだはずの、あの男の名前だった。

第5話へ続く。